わたしが読んだ「認知症ケア」の本に、「上手な介護の12ヵ条」というのがあって、その第3条は「演技を楽しもう」です。認知症の人が何を考え何を感じているかを想像して、その世界に合わせるのがよい、らしいです。現実とは合っていなくても、認知症の人の中では真実だから。
それに合わせるという事はウソをつく事になるんだけど、それは「適当に合わせてる」ように見えるし、ウソは後ろめたく感じます。なので、「あなたは俳優で、映画の撮影で演技をしている」だけだと思い込みましょう、という対処法。
認知症の母を言葉で説得しようとがんばっても、納得してくれません。否定すると大きな反発が返ってきます。
なるほど俳優かあ。なんか思い込むのも難しいし、演技って…? それに、母は元々あまりおしゃべりな方じゃないので、自分の事(世界)をあまり長々と話しません。
わたしは、「徘徊」というドキュメンタリー映画の認知症のママリンの娘さんが、ママリンの言葉ににツッコんでいるのを思い出して、芸人だと思い込む方がわたしたちには合っているような気がしました。師匠が厳しくて、何回、同じ質問をされても、毎回違う答えをしないと怒られる、と。これも時間と気持ちに余裕がある時しかできないんですが、できる時はしよう、と思っていました。
例えば。
通院する時、いつも母にはハンカチしか入っていないバッグを持たせていました。ある時、雨が降りそうだったので、折りたたみ傘を母のバッグに入れて、持っててもらう事にしました。するといつもより重いせいか、自分のバッグじゃないんじゃないか、と思ったみたいです。
一度はちゃんと「雨が降りそうだから、折りたたみ傘が入ってる。」と説明しました。案の定、納得しません。「まあ、気にしないで。」とか「傘入れててもいいよね。」とか言いましたが、バッグをしきりに気にします。もうパターンがないんだけど、と思いながら、「重いから、お母さんに持たせてるの。」と言ってみました。すると反応が違いました。「は?」って。思いやりのない娘だとでも思ったのか、おおげさに呆れた表情をしてから、諦めたようにバッグを持ち直しました。
当時は、「ああ、やっと静かになった。」くらいにしか思っていませんでした。時々なぜかヒットする、師匠のおめがねに叶う受け答えがあるんだよねえ、って。(ちゃんと会話になる時があるんです。)
続く…….。
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